令和7年-問20 行政法 国家賠償法
Lv3
問題 更新:2026-01-12 00:50:34
国家賠償法1条に関する次のア~エの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア.国家賠償法1条は「公権力の行使」によって生じた損害に適用されるが、ここにいう「公権力の行使」は、行政事件訴訟法において抗告訴訟の対象を表す「公権力の行使」と同じ意味であるから、国会議員が行う立法行為は、この概念には含まれないとするのが判例である。
イ.国家賠償法1条は「公権力の行使」によって生じた損害に適用されるが、行政指導や情報提供などの非権力的行政作用も、ここにいう「公権力の行使」に含まれうるとするのが判例である。
ウ.国家賠償法1条による賠償責任を認めるには、加害公務員が「職務を行うについて」他人に損害を与えていることが必要であり、公務員が職務執行の意思をもたずに私的な目的のためになした違法行為については、その外形のいかんにかかわらず、行政主体の賠償責任は成立しないとするのが判例である。
エ.国家賠償法1条による賠償責任を認めるには、加害公務員が職務上尽くすべき注意義務に違反していることが必要であるが、公務員が法律解釈を誤って違法行為を行ったとしても、それにつき異なる見解が対立し、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合には、行政主体の賠償責任は成立しないとするのが判例である。
- ア・イ
- ア・ウ
- ア・エ
- イ・エ
- ウ・エ
正解 4
解説
妥当なものは、イ・エである。
国家賠償法1条は「公権力の行使」によって生じた損害に適用されるが、ここにいう「公権力の行使」は、行政事件訴訟法において抗告訴訟の対象を表す「公権力の行使」と同じ意味であるから、国会議員が行う立法行為は、この概念には含まれないとするのが判例である。 ア.妥当でない
国家賠償法1条における公権力の行使について判例は、国または公共団体の作用のうち純粋な私経済作用と国家賠償法2条によって救済される営造物の設置または管理作用を除くすべての作用と解するとしており(東京高判昭和56年11月13日)、行政事件訴訟法における抗告訴訟の対象を表す公権力の行使よりも広い意味であるとされている。
また、国家賠償法1条1項に規定する公権力の行使には、立法権の行使も含まれる。
「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというような容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない。」(最判昭和60年11月21日)
「立法の内容または立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為または立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受ける。」(最判平成17年9月14日)
国家賠償法1条は「公権力の行使」によって生じた損害に適用されるが、行政指導や情報提供などの非権力的行政作用も、ここにいう「公権力の行使」に含まれうるとするのが判例である。 イ.妥当である
公権力の行使に含まれうる行政指導について、判例は以下のように判示している。
「市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた場合において、事業主による納付の任意性を損なうものでなければ違法ではないが、指導要綱がこれに従わない事業主には水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容とするものであるときは、事実上強制しようとするものであり、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使にあたる」(最判平成5年2月18日)
また、公権力の行使に含まれうる情報提供については、「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたる」(最判昭和56年4月14日)としている。
国家賠償法1条による賠償責任を認めるには、加害公務員が「職務を行うについて」他人に損害を与えていることが必要であり、公務員が職務執行の意思をもたずに私的な目的のためになした違法行為については、その外形のいかんにかかわらず、行政主体の賠償責任は成立しないとするのが判例である。 ウ.妥当でない
「職務執行の意思をもたずに私的な目的のためになした違法行為については、その外形のいかんにかかわらず、行政主体の賠償責任は成立しない」のは妥当でない。
国家賠償法1条の「公務員が、その職務を行う」について、判例は、客観的に職務執行の外形を備える行為であれば、これに含まれるとしており(いわゆる外形標準説)、公務員に主観的な権限行使の意思があることを必要としていない。
公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をして他人に損害を加えた場合、国または公共団体に損害賠償の責任を負わせることで国民の権益を擁護するのが国家賠償法1条の趣旨である(最判昭和31年11月30日)。
国家賠償法1条による賠償責任を認めるには、加害公務員が職務上尽くすべき注意義務に違反していることが必要であるが、公務員が法律解釈を誤って違法行為を行ったとしでも、それにつき異なる見解が対立し、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合には、行政主体の賠償責任は成立しないとするのが判例である。 エ.妥当である
「ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは、のちにその執行が違法と判断されたからといって、ただちに公務員に過失があったとすることは相当でない」(最判昭和46年6月24日)
「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、違法の評価を受ける」(最判平成5年3月11日)
これらを引用し、最判平成19年11月1日の判例は、以下のように判示している。
「担当者の発出した通達の定めが法の解釈を誤る違法なものであったとしても、そのことから直ちに同通達を発出し、これに従った取扱いを継続した担当者の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があったということにはならず、担当者が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と取扱い行為をしたと認められるような事情がある場合に限り、違法になるものである。
ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当ではない」(最判平成19年11月1日)