令和7年-問8 行政法 行政総論
Lv3
問題 更新:2026-01-19 12:02:05
行政行為(処分)に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 瑕疵なく成立した授益的処分について、事後の事情の変化を理由に講学上の撤回をすることは、かかる撤回ができる旨を定める明文の規定が法律または条例にあるときに限られる。
- 重大かつ明白な瑕疵を有する処分は当然に無効とされるが、処分の瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決まる。
- 一定の争訟手続に従って当事者を手続に関与せしめ、紛争の終局的解決を図ることを目的とする処分であっても、当該処分をした行政庁は、特別の規定がない限り、当該処分を取り消すことができる。
- 既になされた授益的処分について、講学上の職権取消しができるのは、当該授益的処分の成立時に違法があるときに限られ、不当があるにすぎない場合は除外される。
- 処分の成立時点において瑕疵があった場合、事後の事情の変化により当該瑕疵が解消するに至ったとしても、その瑕疵は治癒されることはなく、当該処分はそれを理由として取り消されるか、または当然に無効であるとされる。
正解 2
解説
瑕疵なく成立した授益的処分について、事後の事情の変化を理由に講学上の撤回をすることは、かかる撤回ができる旨を定める明文の規定が法律または条例にあるときに限られる。 1.妥当でない
行政行為の撤回は、相手方の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められる場合は、必ずしも法律の根拠を必要としないとされている。
行政行為の撤回とは、瑕疵なく有効に成立した行政行為について、その後の事情の変更により当該行政行為の効力を維持することが公益上適当でなくなった場合に、その効果を将来に向かって失わせるものである。
優生保護法による指定を受けた医師が、虚偽の出生証明書を発行して他人の嬰児(えいじ:生まれて間もない子どものこと)を斡旋する、いわゆる実子あっせんを長年にわたり多数回行ったことが判明し、そのうちの一例につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられた事件について、判例は「指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する指定を撤回することができる」(最判昭和63年6月17日)としている。
重大かつ明白な瑕疵を有する処分は当然に無効とされるが、処分の瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決まる。 2.妥当である
行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきであって、外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるといえる(最判昭和36年3月7日)。
一定の争訟手続に従って当事者を手続に関与せしめ、紛争の終局的解決を図ることを目的とする処分であっても、当該処分をした行政庁は、特別の規定がない限り、当該処分を取り消すことができる。 3.妥当でない
不可変更力に関する判例である。
不可変更力とは、争訟裁断行為(審査請求に対する裁決等)等ある一定の行政行為について、例外的に認められる効力で、行政庁自らによる職権取消し・変更をなしえない効力をいう。
したがって、他の一般行政処分とは異なり、特別の規定がない限り、裁決庁自らにおいて取消すことはできない。
「農地の買収計画についての異議の申立て却下に対する訴願(違法または不当な行政処分の取り消しや変更を行政官庁に請求すること)を認容した裁決は、行政処分であることは言うまでもないが、実質的には法律上の争訟を裁判するものである。このような性質を有する裁決は、他の一般行政処分とは異なり、特別の規定がない限り、裁決庁自らにおいて取消すことはできない」(最判昭和29年1月21日)
既になされた授益的処分について、講学上の職権取消しができるのは、当該授益的処分の成立時に違法があるときに限られ、不当があるにすぎない場合は除外される。 4.妥当でない
授益的処分の成立時に違法があるときに限られず、不当があると認められる場合にも職権取消しができる。
取消しにより名宛人の権利または法律上の利益が害される行政庁の処分につき、当該処分がされた時点において瑕疵があることを理由に当該行政庁が職権でこれを取り消した場合において、当該処分を職権で取り消すに足りる瑕疵があるか否かが争われたときは、この点に関する裁判所の審理判断は、当該処分がされた時点における事情に照らし、当該処分に違法または不当があると認められるか否かとの観点から行われるべきものであるとしている(最判平成28年12月20日)。
処分の成立時点において瑕疵があった場合、事後の事情の変化により当該瑕疵が解消するに至ったとしても、その瑕疵は治癒されることはなく、当該処分はそれを理由として取り消されるか、または当然に無効であるとされる。 5.妥当でない
瑕疵ある行政行為において、その後の事情の変化によって、当初は欠けていた適法要件が実質的に充足された場合、適法と扱うことは判例において認められている。いわゆる「瑕疵の治癒」と呼ばれるものである。
「農地買収計画の異議棄却決定に対する訴願の提起があるにもかかわらず、その裁決を経ないで、県農地委員会が訴願棄却の裁決があることを停止条件として買収計画を承認し、県知事が土地所有者に買収令書を発行したという瑕疵は、その後、訴願棄却の裁決があったことによって治癒されたと認めるべきである」(最判昭和36年7月14日)
もっとも、瑕疵ある行政行為がなされた後に、瑕疵が充足されたとしても治癒されなかった判例もあるので注意。
「青色申告についてした更正処分における理由附記の不備の瑕疵は、処分に対する審査裁決において処分理由が明らかにされた場合であっても、治癒されない」(最判昭和47年12月5日)