令和6年-問34没問 民法 債権
Lv4
問題 更新:2025-01-10 01:03:41
試験センターより「正答肢が二つある」として、全員が正解とされた。よって没問とする。
不法行為に基づく損害賠償に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 不法行為による生命侵害の場合において、被害者の相続人であれば、常に近親者固有の慰謝料請求権が認められる。
- 法人が名誉毀損を受けた場合、法人には感情がないので、財産的損害を除き、非財産的損害の賠償は認められない。
- 交通事故による被害者が、いわゆる個人会社の唯一の代表取締役であり、被害者には当該会社の機関としての代替性がなく、被害者と当該会社とが経済的に一体をなす等の事情の下では、当該会社は、加害者に対し、被害者の負傷のため営業利益を逸失したことによる賠償を請求することができる。
- 不法行為により身体傷害を受けた被害者は、後遺症が残ったため、労働能力の全部または一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失した場合には、その損害について定期金ではなく、一時金による一括賠償しか求めることができない。
- 交通事故の被害者が後遺症により労働能力の一部を喪失した場合に、その後に被害者が別原因で死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は逸失利益に関する就労可能期間の認定において考慮されない。
正解 3、5
解説
試験センターより「選択肢3と選択肢5が妥当なものであり、正答肢が二つある」として没問となったが、それぞれの肢について解説する。
不法行為による生命侵害の場合において、被害者の相続人であれば、常に近親者固有の慰謝料請求権が認められる。 1.妥当でない
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者および子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない(民法711条)とし、近親者固有の慰謝料請求権を認めているが、では、上記相続人以外の相続人に対しても常に当該請求権が認められているかについて判例は、「文言上本条に該当しない者であっても、被害者との間に本条所定の者と実質的に同視し得べき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、本条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求し得る(最判昭和33年8月5日)」として、被害者の相続人だからといって、常に近親者固有の慰謝料請求権を認めているわけではない。
法人が名誉毀損を受けた場合、法人には感情がないので、財産的損害を除き、非財産的損害の賠償は認められない。 2.妥当でない
「法人には感情がないので、財産的損害を除き、非財産的損害の賠償は認められない」は妥当でない。
法人にも名誉毀損は認められる。
名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用その他の人格的価値について社会から受ける客観的評価をいい、ここにいう「人」には法人も含まれる。そして、法人にも名誉はあるので、これにより無形の損害が発生した場合には、これの金銭評価が可能な限り、その賠償が命じられる(最判昭和39年1月28日)。
交通事故による被害者が、いわゆる個人会社の唯一の代表取締役であり、被害者には当該会社の機関としての代替性がなく、被害者と当該会社とが経済的に一体をなす等の事情の下では、当該会社は、加害者に対し、被害者の負傷のため営業利益を逸失したことによる賠償を請求することができる。 3.妥当である※
交通事故により会社の代表者を負傷させた場合において、当該会社がいわゆる個人会社で、被害者に当該会社の機関としての代替性がなく、被害者と当該会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、当該会社は、被害者の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を加害者に請求することができる(最判昭和43年11月15日)。
不法行為により身体傷害を受けた被害者は、後遺症が残ったため、労働能力の全部または一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失した場合には、その損害について定期金ではなく、一時金による一括賠償しか求めることができない。 4.妥当でない
「定期金ではなく、一時金による一括賠償しか求めることができない」は妥当でない。
交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、高次脳機能障害という後遺障害のため労働能力を全部喪失し、逸失利益の現実化が将来の長期間にわたるなど相当と認められる事情の下では、逸失利益は、定期金による賠償の対象となる(最判令和2年7月9日)。
交通事故の被害者が後遺症により労働能力の一部を喪失した場合に、その後に被害者が別原因で死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は逸失利益に関する就労可能期間の認定において考慮されない。 5.妥当である※
「交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定にあたっては、その後に被害者が死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない。」(最判平成8年4月25日)