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令和6年-問32 民法 債権

Lv4

問題 更新:2025-01-10 01:02:33

A所有の動産甲(以下「甲」という)を、BがCに売却する契約(以下「本件契約」という)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。
  2. Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。
  3. Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。
  4. Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。
  5. Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。
  解答&解説

正解 5

解説

Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。 1.妥当でない

甲を他に譲渡する意思がAにないことが明確であっても、本件契約は有効である。

契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、その履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない(民法412条の2第2項)。
つまり原始的不能の契約であっても、原則として有効である。
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う(民法561条)。
また、目的物の所有者となる第三者が当初から目的物を譲渡する意思がなくても、契約は無効にならず、売主は担保責任を負う(最判昭和25年10月26日)。

Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。 2.妥当でない

Cは当然に甲の所有権を取得するわけではない。

「他人の権利の売主が死亡し、その権利者において売主を相続した場合には、権利者は相続により売主の売買契約上の義務ないし地位を承継するが、そのために権利者自身が売買契約を締結したことになるものでないことはもちろん、これによって売買の目的とされた権利が当然に買主に移転するものと解すべき根拠もない。」
「権利者は、その権利により、相続人として承継した売主の履行義務を直ちに履行することができるが、他面において、権利者としてその権利の移転につき諾否の自由を保有しているのであって、それが相続による売主の義務の承継という偶然の事由によって左右されるべき理由はなく、また権利者がその権利の移転を拒否したからといって買主が不測の不利益を受けるというわけでもない。」
「権利者は、相続によって売主の義務ないし地位を承継しても、相続前と同様その権利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができる」(最大判昭和49年9月4日)

判例中の「権利者」とは、所有権者のことであり、本肢ではAにあたる。

Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。 3.妥当でない

Cに対して甲を現実に引き渡したからといって、Cが即時取得により、所有権を取得するわけではない。

代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない(民法113条)。
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する(民法192条)。

民法192条の「取引行為」とは、有効な行為である必要があるため、無権代理人であるBの行った契約は、Aが追認をしない限り民法113条により無効である。

Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。 4.妥当でない

Cに過失があっても、本件契約が無効となった場合、Cは、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができる。

他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う(民法117条1項)。
民法117条1項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
①他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
②他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。

ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、適用される(民法117条2項2号ただし書き)。

「Bが、B自身をAの代理人と偽って」とあるので、民法117条2項2号ただし書きが適用される場面である。

Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。 5.妥当である

判例は「定款により不動産の売却に理事会の承認が必要であることを買主Cが知っていたために善意とはいえない場合であっても、当該具体的行為につき理事会の決議があったと信じ、かつ、このように信ずるにつき正当の理由があるときには、民法110条の表見代理に関する規定が類推適用される」としている(最判昭和60年11月29日)。
したがって、本件契約は有効である。

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