令和6年-問30 民法 物権
Lv3
問題 更新:2025-01-10 01:01:38
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
- Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
- AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。
- Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。
- CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。
正解 3
解説
Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。 1.妥当でない
「直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる」は妥当でない。
判例は、抵当権に基づく妨害排除請求を認めているが、通常の賃借権に対して直ちに明渡しを求めることができるとはしていない。
「抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても、抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり、その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難な状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、状態の排除を求めることができる。」
「抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使にあたり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合、抵当権者は、当該占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。」(最判平成17年3月10日)
Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。 2.妥当でない
「直ちに」所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることはできない。
抵当権者に対抗することができない競売手続の開始前からの賃借人は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ヵ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない(民法395条1項1号)。
AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。 3.妥当である
抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができるが、抵当権者は、その払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければならない(民法372条、民法304条1項)。
また、抵当権設定者のもつ賃料債権が第三者に譲渡された場合について判例は「抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる」(最判平成10年1月30日)としている。
Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。 4.妥当でない
「Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できる」とあるので、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができない。
肢1参照。
「抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても、抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり、その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、状態の排除を求めることができる。」
「抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使にあたり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる」(最判平成17年3月10日)
CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。 5.妥当でない
Bは、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することはできない。
抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる(民法372条、民法304条1項)。
しかし、転貸賃料債権に物上代位することは、抵当不動産の賃借人を所有者と同視する場合を除いて、することができない。
所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである(最判平成12年4月14日)。