令和6年-問29 民法 物権
Lv3
問題 更新:2025-01-10 01:01:08
甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。
- 遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
- Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
- Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
- Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
正解 4
解説
遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。 1.妥当である
共同相続した不動産について、その一人が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者が移転登記をうけた場合、各共同相続人には共有持分を超えた権利はないため、他の共同相続人は、自己の持分については、登記なくして第三者取得者に対抗できる(最判昭和38年2月22日)。
共同相続の場合、各相続人は相続財産に属する不動産について相続分に応じた持分権を取得するが、BはAの持分権については無権利者である。そして、Bから売却を受けた特定承継人のDは、Cの持分権に関しては無権利者であり、民法177条の第三者に該当しないからである。
遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。 2.妥当である
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分および代襲相続人の相続分により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない(民法899条の2第1項)。
Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。 3.妥当である
民法177条が広く物権の得喪変更について登記をもって対抗要件としているところから見れば、遺贈を例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもって物権変動の対抗要件とする(最判昭和39年3月6日)。
Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。 4.妥当でない
Cは、差押の無効を主張することができる。
「相続の放棄をした相続人は相続開始時に遡って相続開始がなかったのと同じ地位におかれることになるので、相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生じる絶対的効力である。」
「相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、相続放棄人も共同相続したものとして代位による所有権保存登記をしたうえ、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効である」(最判昭和42年1月20日)
Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。 5.妥当である
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分および代襲相続人の相続分の割合により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない(民法899条の2第1項)。
相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないように立法化されている。
肢2参照。