令和6年-問28 民法 総則
Lv4
問題 更新:2025-01-10 01:00:33
無効および取消しに関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。
- 贈与契約が無効であるにもかかわらず、既に贈与者の履行が完了している場合、受贈者は受け取った目的物を贈与者に返還しなければならず、それが滅失して返還できないときは、贈与契約が無効であることを知らなかったとしても、その目的物の現存利益の返還では足りない。
- 売買契約が無効であるにもかかわらず、既に当事者双方の債務の履行が完了している場合、売主は受け取った金銭を善意で費消していたとしても、その全額を返還しなければならない。
- 秘密証書遺言は、法が定める方式に欠けるものであるときは無効であるが、それが自筆証書による遺言の方式を具備しているときは、自筆証書遺言としてその効力を有する。
- 未成年者が親権者の同意を得ずに締結した契約について、未成年者本人が、制限行為能力を理由としてこれを取り消す場合、親権者の同意を得る必要はない。
- 取り消すことができる契約につき、取消権を有する当事者が、追認をすることができる時以後に、異議をとどめずにその履行を請求した場合、これにより同人は取消権を失う。
正解 1
解説
贈与契約が無効であるにもかかわらず、既に贈与者の履行が完了している場合、受贈者は受け取った目的物を贈与者に返還しなければならず、それが滅失して返還できないときは、贈与契約が無効であることを知らなかったとしても、その目的物の現存利益の返還では足りない。 1.誤り
「贈与契約が無効であることを知らなかった」=受贈者が善意である時は、目的物の現存利益の返還で足りる。
無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負うが(民法121条の2第1項)無効な無償行為(贈与契約)に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であることを知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う(民法121条の2第2項)。
この場合、当事者の一方のみが返還義務を負うことから、利益の受領後の管理処分の結果として当事者の間に不均衡が生じることはない。そのため、給付を受けた利益の全部または一部がその後に消滅した場合、その消滅分についても返還させると、給付を受けた者に自己の財産として処分したことにより不利益を被らせることになるからである。
売買契約が無効であるにもかかわらず、既に当事者双方の債務の履行が完了している場合、売主は受け取った金銭を善意で費消していたとしても、その全額を返還しなければならない。 2.正しい
無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(民法121条の2第1項)。
売買契約は有償行為なので、贈与契約(無償行為)である肢1とは違い、売主は受け取った金銭を善意で費消していたとしても、全額を返還しなければならない。逆に買主は、目的物が滅失するなどして原物を返還することができない場合には、その価値相当額の金銭を支払う義務(価額償還義務)を負う。
秘密証書遺言は、法が定める方式に欠けるものであるときは無効であるが、それが自筆証書による遺言の方式を具備しているときは、自筆証書遺言としてその効力を有する。 3.正しい
秘密証書による遺言は、民法970条に定める方式に欠けるものがあっても、民法968条(自筆証書遺言)に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する(民法971条)。
自筆証書遺言に定める方式(民法968条) |
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①遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、印を押さなければならない。 ②自筆証書に相続財産の目録を添付する場合の目録については自書でなくてもよいが、目録の毎葉(両面にある場合は両面)に署名し、印を押さなければならない。 ③自筆証書(目録を含む)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、かつ、変更の場所に印を押さなければ効力を生じない。 |
秘密証書遺言に定める方式(民法970条) |
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①遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。 ②遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもって封印すること。 ③遺言者が、公証人一人および証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述すること。 ④公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともに署名し、印を押すこと。 |
未成年者が親権者の同意を得ずに締結した契約について、未成年者本人が、制限行為能力を理由としてこれを取り消す場合、親権者の同意を得る必要はない。 4.正しい
未成年者が法定代理人の同意を得ないでした法律行為は、取り消すことができるが、この取消権は法定代理人だけではなく、未成年者本人も有する(民法5条2項、民法120条1項)。
取消しは、行為能力制限違反のない状態に戻す行為であり、制限行為能力者に不利益が生じないからである。したがって、未成年者が取り消す場合に親権者(法定代理人)の同意は不要である。
取り消すことができる契約につき、取消権を有する当事者が、追認をすることができる時以後に、異議をとどめずにその履行を請求した場合、これにより同人は取消権を失う。 5.正しい
取り消すことができる行為は、取消権者が追認したときは、以後、取り消すことができない(民法122条)。
追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について異議をとどめずに履行の請求があったときは、追認をしたものとみなされる(民法125条2号)。
つまり取消権者の法定追認により、取消権を失うことになる。
法定追認(民法125条) |
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①全部または一部の履行 ②履行の請求 ③更改 ④担保の供与 ⑤取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡 ⑥強制執行 |