令和6年-問17 行政法 行政事件訴訟法
Lv3
問題 更新:2025-01-10 00:53:33
処分取消訴訟における訴えの利益の消滅に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 公務員に対する免職処分の取消訴訟における訴えの利益は、免職処分を受けた公務員が公職の選挙に立候補した後は、給料請求権等の回復可能性があるか否かにかかわらず、消滅する。
- 保安林指定解除処分の取消訴訟における訴えの利益は、原告適格の基礎とされた個別具体的な利益侵害状況が代替施設の設置によって解消するに至った場合には、消滅する。
- 公文書非公開決定処分の取消訴訟における訴えの利益は、公開請求の対象である公文書が当該取消訴訟において書証として提出された場合には、消滅する。
- 運転免許停止処分の取消訴訟における訴えの利益は、免許停止期間が経過した場合であっても、取消判決により原告の名誉・感情・信用等の回復可能性がある場合には、消滅しない。
- 市立保育所廃止条例を制定する行為の取消訴訟における訴えの利益は、当該保育所で保育を受けていた原告ら児童の保育の実施期間が満了した場合であっても、当該条例が廃止されない限り、消滅しない。
正解 2
解説
公務員に対する免職処分の取消訴訟における訴えの利益は、免職処分を受けた公務員が公職の選挙に立候補した後は、給料請求権等の回復可能性があるか否かにかかわらず、消滅する。 1.妥当でない
公職への立候補によって、公務員を辞職したものとみなされたとしても、免職処分でなければ有するはずであった給料債権等の利益の回復を求める事ができるので、訴えの利益は失われない。
「当該公務員は、違法な免職処分さえなければ公務員として有するはずであった給料請求権その他の権利、利益につき裁判所に救済を求めることができなくなるのであるから、本件免職処分の効力を排除する判決を求めることは、右の権利、利益を回復するための必要な手段である」
「権利、利益が害されたままになっているという不利益状態の存在する余地がある以上、上告人(原告)は、なおかつ、本件訴訟を追行する利益を有する」(最大判昭和40年4月28日)
保安林指定解除処分の取消訴訟における訴えの利益は、原告適格の基礎とされた個別具体的な利益侵害状況が代替施設の設置によって解消するに至った場合には、消滅する。 2.妥当である
代替施設の設置により、洪水・渇水の危険が解消されれば、訴えの利益は失われる。
「保安林の指定が違法に解除され、それによって自己の利益を害された場合には、右解除処分に対する取消しの訴えを提起する原告適格を有するということができるが、代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、本件保安林の存続の必要性がなくなったときは、指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われる」(長沼ナイキ基地訴訟:最判昭和57年9月9日)
公文書非公開決定処分の取消訴訟における訴えの利益は、公開請求の対象である公文書が当該取消訴訟において書証として提出された場合には、消滅する。 3.妥当でない
公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は、当該公文書が書証として提出された場合でも失われない。
「本件条例に基づき公文書の公開を請求して、所定の手続により請求に係る公文書を閲覧し、または写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するから、請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証として提出されたとしても、当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではない」(最判平成14年2月28日)」
運転免許停止処分の取消訴訟における訴えの利益は、免許停止期間が経過した場合であっても、取消判決により原告の名誉・感情・信用等の回復可能性がある場合には、消滅しない。 4.妥当でない
自動車運転免許の免許停止処分を受けた場合において、その停止処分の取消訴訟は、免停の期間及び期間の経過により違反点数が消滅した場合、訴えの利益は消滅する。
「自動車運転免許の効力停止処分を受けた者は、免許の効力停止期間を経過し、かつ、処分の日から無違反・無処分で1年を経過したときは、処分を理由に道路交通法上不利益を受けるおそれがなくなったことはもとより、他に本件原処分を理由に被上告人を不利益に取り扱いうることを認めた法令の規定はないから、行政事件訴訟法9条の規定の適用上、処分の取消によって回復すべき法律上の利益を有しない」(最判昭和55年11月25日)
また、取消判決により原告の名誉・感情・信用等の回復可能性がある場合についても、同判例は「名誉、感情、信用等を損なう可能性の存在が認められるとしても、それは本件原処分がもたらす事実上の効果にすぎないものであり、これをもって取消の訴えによって回復すべき法律上の利益を有することの根拠とするのは相当でない」としている。
市立保育所廃止条例を制定する行為の取消訴訟における訴えの利益は、当該保育所で保育を受けていた原告ら児童の保育の実施期間が満了した場合であっても、当該条例が廃止されない限り、消滅しない。 5.妥当でない
原告らにかかる保育の実施期間が全て満了すれば訴えの利益は消滅する。
市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益について判例は「上告人らに係る保育の実施期間がすべて満了していることが明らかであるから、本件改正条例の制定行為の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。」(最判平成21年11月26日)。