令和4年-問34 民法 債権
Lv3
問題 更新:2025-10-14 13:54:48
不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 未成年者が他人に損害を加えた場合、道徳上の是非善悪を判断できるだけの能力があるときは、当該未成年者は、損害賠償の責任を負う。
- 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、過失によって一時的にその状態を招いたとしても、損害賠償の責任を負わない。
- 野生の熊が襲ってきたので自己の身を守るために他人の宅地に飛び込み板塀を壊した者には、正当防衛が成立する。
- 路上でナイフを振り回して襲ってきた暴漢から自己の身を守るために他人の家の窓を割って逃げ込んだ者には、緊急避難が成立する。
- 路上でナイフを持った暴漢に襲われた者が自己の身を守るために他人の家の窓を割って逃げ込んだ場合、窓を壊された被害者は、窓を割った者に対して損害賠償を請求できないが、当該暴漢に対しては損害賠償を請求できる。
正解 5
解説
未成年者が他人に損害を加えた場合、道徳上の是非善悪を判断できるだけの能力があるときは、当該未成年者は、損害賠償の責任を負う。 1.妥当でない
本肢の未成年者は、損害賠償の責任を負わない。
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない(民法712条)。
「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」について、判例は「『行為の責任を弁識するに足るべき知能』とは、道徳上その行為が不正であることを弁識する知能という意味ではなく、加害行為について法律上の責任を弁識できる程度の知能を指すものである」(大判大正6年4月30日)としている。
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、過失によって一時的にその状態を招いたとしても、損害賠償の責任を負わない。 2.妥当でない
過失によって一時的にその状態を招いた場合は、損害賠償の責任を負う。
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わないのを原則とするが(民法713条本文)、故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、責任を負う(民法713条ただし書き)。
たとえば、お酒を飲み酩酊状態で他人に損害を加えた場合など、責任を負うことになる。
野生の熊が襲ってきたので自己の身を守るために他人の宅地に飛び込み板塀を壊した者には、正当防衛が成立する。 3.妥当でない
正当防衛は成立しない。
| 民法720条 |
|---|
| 1項 他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。 |
| 2項 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。 |
民法720条のうち、1項が正当防衛について、2項が緊急避難についての規定と解されている。
正当防衛は、他人の不法行為に対する防衛行為として、第三者または相手(人)に加害行為をした場合に適用されるが、本肢において、野生の熊は人ではないから、他人の不法行為に対する防衛行為という要件を満たさないため、正当防衛は適用されない。
一方、緊急避難は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためにその物を損傷した場合に適用されるが、本肢において、野生の熊は他人の物ではなく、かつ板塀を壊すという、その物を損傷したわけでもないことから要件を満たさないため、緊急避難は適用されない。
したがって、正当防衛は当然ながら緊急避難も成立しない。
路上でナイフを振り回して襲ってきた暴漢から自己の身を守るために他人の家の窓を割って逃げ込んだ者には、緊急避難が成立する。 4.妥当でない
本肢の場合、成立するのは、緊急避難ではなく、正当防衛である。
肢3解説を参照。
正当防衛は、他人の不法行為に対する防衛行為として、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するために加害行為をした場合に適用される。
路上でナイフを持った暴漢に襲われた者が自己の身を守るために他人の家の窓を割って逃げ込んだ場合、窓を壊された被害者は、窓を割った者に対して損害賠償を請求できないが、当該暴漢に対しては損害賠償を請求できる。 5.妥当である
肢3解説を参照。
正当防衛により加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わないが(民法720条1項本文)、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求はできる(民法720条1項ただし書き)。
よって、窓を壊された被害者は、窓を割った者に対して損害賠償を請求できないが、当該暴漢に対しては損害賠償を請求できる。