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令和4年-問8 行政法 行政総論

Lv3

問題 更新:2023-11-20 18:46:22

公法上の権利の一身専属性に関する次の文章の空欄[ A ]~[ C ]に当てはまる文章の組合せとして、妥当なものはどれか。

最高裁判所昭和42年5月24日判決(いわゆる朝日訴訟判決)においては、生活保護を受給する地位は、一身専属のものであって相続の対象とはなりえず、その結果、原告の死亡と同時に当該訴訟は終了して、同人の相続人らが当該訴訟を承継し得る余地はないとされた。そして、この判決は、その前提として、[ A ]。
その後も公法上の権利の一身専属性が問題となる事例が散見されたが、労働者等のじん肺に係る労災保険給付を請求する権利については最高裁判所平成29年4月6日判決が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権については最高裁判所平成29年12月18日判決が、それぞれ判断をしており、[ B ]。
なお、この健康管理手当の受給権の一身専属性について、最高裁判所平成29年12月18日判決では、受給権の性質が[ C ]。

空欄[ A ]
ア.生活保護法の規定に基づき、要保護者等が国から生活保護を受けるのは、法的利益であって、保護受給権とも称すべきものであるとしている
イ.生活保護法の規定に基づき、要保護者等が国から生活保護を受けるのは、国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益であるとしている

空欄[ B ]
ウ.両判決ともに、権利の一身専属性を認めて、相続人による訴訟承継を認めなかった
エ.両判決ともに、権利の一身専属性を認めず、相続人による訴訟承継を認めた

空欄[ C ]
オ.社会保障的性質を有することが、一身専属性が認められない根拠の一つになるとの考え方が示されている
カ.国家補償的性質を有することが、一身専属性が認められない根拠の一つになるとの考え方が示されている

ABC
1.
2.
3.
4.
5.
  解答&解説

正解 2

解説

A:ア、B:エ、C:カ

最高裁判所昭和42年5月24日判決(いわゆる朝日訴訟判決)においては、生活保護を受給する地位は、一身専属のものであって相続の対象とはなりえず、その結果、原告の死亡と同時に当該訴訟は終了して、同人の相続人らが当該訴訟を承継し得る余地はないとされた。そして、この判決は、その前提として、[ A ]。 A.アが入る

ア.生活保護法の規定に基づき、要保護者等が国から生活保護を受けるのは、法的利益であって、保護受給権とも称すべきものであるとしている

生活保護法の規定に基づき要保護者または被保護者が国から生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であって、保護受給権とも称すべきものと解すべきである。

しかし、この権利は、被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であって、他にこれを譲渡し得ないし、相続の対象ともなり得ないというべきである。
また、被保護者の生存中の扶助ですでに遅滞にあるものの給付を求める権利についても、医療扶助の場合はもちろんのこと、金銭給付を内容とする生活扶助の場合でも、それは当該被保護者の最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであって、法の予定する目的以外に流用することを許さないものであるから、当該被保護者の死亡によって当然消滅し、相続の対象となり得ない、と解するのが相当である。
また、所論不当利得返還請求権は、保護受給権を前提としてはじめて成立するものであり、その保護受給権が右に述べたように一身専属の権利である以上、相続の対象となり得ないと解するのが相当である(朝日訴訟:最判昭和42年5月24日判決)。

判例が示した相続の対象となり得ない理由は以下のとおり。

  • 被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であって、他に譲渡できない
  • 被保護者の生存中の扶助ですでに遅滞にあるものの給付を求める権利についても、医療扶助の場合はもちろんのこと、金銭給付を内容とする生活扶助の場合でも、それは当該被保護者の最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであって、法の予定する目的以外に流用することを許さないものであるから、当該被保護者の死亡によって当然消滅する
  • 不当利得返還請求権は、保護受給権を前提としてはじめて成立するものであり、その保護受給権が一身専属の権利である

その後も公法上の権利の一身専属性が問題となる事例が散見されたが、労働者等のじん肺に係る労災保険給付を請求する権利については最高裁判所平成29年4月6日判決が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権については最高裁判所平成29年12月18日判決が、それぞれ判断をしており、[ B ]。 B.エが入る

エ.両判決ともに、権利の一身専属性を認めず、相続人による訴訟承継を認めた

最判平成29年4月6日判決では、「じん肺管理区分決定が管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が当該決定の取消しを求める訴訟の係属中に死亡した場合、当該訴訟は当該労働者等の死亡によって当然に終了するものではなく、当該労働者等のじん肺に係る未支給の労災保険給付を請求することができる労災保険法11条1項所定の遺族においてこれを承継すべきものと解するのが相当である。」としている。

最判平成29年12月18日判決では、「被爆者援護法の性格や健康管理手当の目的及び内容に鑑みると、同条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は、当該申請をした者の一身に専属する権利ということはできず、相続の対象となるものであるから、被爆者健康手帳交付申請及び健康管理手当認定申請の各却下処分の取消しを求める訴訟並びに同取消しに加えて被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴訟について、訴訟の係属中に申請者が死亡した場合には、当該訴訟は当該申請者の死亡により当然に終了するものではなく、その相続人がこれを承継するものと解するのが相当である。」と判示している。

いずれも根拠法の主旨や手当の目的及び内容から、一身専属ではなく相続の対象とされた。

なお、この健康管理手当の受給権の一身専属性について、最高裁判所平成29年12月18日判決では、受給権の性質が[ C ]。 C.カが入る

カ.国家補償的性質を有することが、一身専属性が認められない根拠の一つになるとの考え方が示されている

最判平成29年12月18日判例は、被爆者援護法は原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する特殊な戦争被害において、戦争遂行主体であった国の責任により救済を図るという一面を有し、実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあるとした。

そして、被爆者健康手帳交付申請及び健康管理手当認定申請の各却下処分の取消しを求める訴訟と被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴訟の係属中に申請者が死亡した場合には、当該訴訟は当該申請者の死亡により当然に終了するものではなく、その相続人がこれを承継すると判示している。

国家補償
国家の活動によって私人に損失が生じた場合に、その損失を填補することによって救済を図る制度のこと
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