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平成27年-問34 民法 債権

Lv3

問題 更新:2024-01-07 12:22:02

A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した。CがAに対して負うべき損害賠償額(以下、「本件損害賠償額」という。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに責任能力があることが必要であるので、本件ではAの過失を斟酌することはできない。
  2. 本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに事理弁識能力があることは必要でなく、それゆえ、本件ではAの過失を斟酌することができる。
  3. 本件損害賠償額を定めるにあたって、BとAとは親子関係にあるが、BとAとは別人格なので、Bが目を離した点についてのBの過失を斟酌することはできない。
  4. 本件損害賠償額を定めるにあたって、Aが罹患(りかん)していた疾患も一因となって死亡した場合、疾患は過失とはいえないので、当該疾患の態様、程度のいかんにかかわらずAの疾患を斟酌することはできない。
  5. 本件損害賠償額を定めるにあたって、Aの死亡によって親が支出を免れた養育費をAの逸失利益から控除することはできない。
  解答&解説

正解 5

解説

主に不法行為の過失相殺についてである。

そもそも過失相殺は条文に根拠がある。条文によると、被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができると定められている(民法722条2項)。

なお、過失相殺といえば債務不履行責任の過失相殺の規定も確認するとよいであろう(民法418条参照)。

本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに責任能力があることが必要であるので、本件ではAの過失を斟酌することはできない。 1.妥当でない。

過失相殺のために「責任能力」までを求めている本肢は妥当でない。

不法行為の場面で過失相殺の規定を適用するためには、被害者に「過失」が認められなければならない。
そして、その過失が認められるためには、そもそも損害の発生を避けるために必要な注意能力がある状態でなければならない。当該注意能力がなければ「お前は被害者かもしれないが、注意しなかったお前も悪い!」とは言えず、損害賠償額を低く調整することは妥当でないからである。

この「注意能力」については、条文ではどの程度の能力があればよいかは明らかではない。
その点判例は「被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である(最大判昭和39年6月24日)」としている。
つまり過失相殺の規定を使うためには事理弁識能力があればよいのであって、責任能力があることまでは求められていない。

本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに事理弁識能力があることは必要でなく、それゆえ、本件ではAの過失を斟酌することができる。 2.妥当でない。

肢1解説を参照。

過失相殺のためには「事理弁識能力」が必要である。

本件損害賠償額を定めるにあたって、BとAとは親子関係にあるが、BとAとは別人格なので、Bが目を離した点についてのBの過失を斟酌することはできない。 3.妥当でない。

母親Bの過失を斟酌できないとする本肢は妥当でない。

Aは3歳ということであるから事理弁識能力はないと思われ、Aの過失を認定して過失相殺することができず、Cにとって酷な結果となる。そもそも母親Bが目を離しておきた事故なのだから、被害者自身に事理弁識能力がない場合でも、なんとかして過失相殺の規定を適用し、損害の公平な分担をするべきである。

そこで判例は「被害者側の過失」という概念を採用するに至った。

判例によれば「民法722条2項に定める被害者の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、当該被害者側の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するのを相当とする」としている(最判昭和42年6月27日)。
母親Bの過失まで含めて、過失相殺の規定の適用を検討するのが公平であるからである。

本件損害賠償額を定めるにあたって、Aが罹患(りかん)していた疾患も一因となって死亡した場合、疾患は過失とはいえないので、当該疾患の態様、程度のいかんにかかわらずAの疾患を斟酌することはできない。 4.妥当でない。

過失相殺の制度趣旨は、「損害の公平な分担」である。
とするならば、本来的には過失相殺の場面でないとしても、過失相殺の規定を使って、損害賠償額の調整をするべき場面があるのではなかろうか。

この考え方に基づいて判例は「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるにあたり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である」としている(最判平成4年6月25日)。

本件損害賠償額を定めるにあたって、Aの死亡によって親が支出を免れた養育費をAの逸失利益から控除することはできない。 5.妥当である。

本肢は過失相殺ではなく「損益相殺」についての問題である。

そもそも被害者(あるいはその遺族)は不法行為で損害を受けたものの、他方において、支出しなければいけなかった費用の出費を免れたという事実(たとえば不法行為で被害者が死亡したのなら、死亡後の生活費は発生しないことになるという事実)もある。
そこで、被害者は支出が減ったという意味で、ある種の利益を受けたのだから、この利益額を損害賠償の額から控除して損害額を算定することを損益相殺という。

問題なのは、どの場面で損益相殺ができるかであるが、明文がないため解釈による。

養育費については、判例によると、交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合においても、当該養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には、前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがって、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたり、その将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当であるとしている(最判昭和53年10月20日)。
つまり養育費は損益相殺ができない。「養育費を支払うことは親にとっては楽しみなことでもあり、養育費の支出を免れることは、親にとって利益とはいえない、だから損益相殺できない」ということである。

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