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令和6年-問20 行政法 国家賠償法

Lv3

問題 更新:2025-01-10 00:55:15

国家賠償に関する次のア~エの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、その正誤を正しく示す組合せはどれか。

ア.教科用図書の検定にあたり文部大臣(当時)が指摘する検定意見は、すべて、検定の合否に直接の影響を及ぼすものではなく、文部大臣の助言、指導の性質を有するものにすぎないから、これを付することは、教科書の執筆者または出版社がその意に反してこれに服さざるを得なくなるなどの特段の事情のない限り、原則として、国家賠償法上違法とならない。

イ.政府が物価の安定等の政策目標を実現するためにとるべき具体的な措置についての判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため当該政策目標を達成できなかった場合、法律上の義務違反ないし違法行為として、国家賠償法上の損害賠償責任の問題が生ずる。

ウ.町立中学校の生徒が、放課後に課外のクラブ活動中の運動部員から顔面を殴打されたことにより失明した場合において、当該事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のない限り、顧問の教諭が当該クラブ活動に立ち会っていなかったとしても、当該事故の発生につき当該教諭に過失があるとはいえない。

エ.市内の河川について市が法律上の管理権をもたない場合でも、当該市が地域住民の要望にこたえて都市排水路の機能の維持および都市水害の防止など地方公共の目的を達成するために河川の改修工事をして、これを事実上管理することになったときは、当該市は、当該河川の管理につき、国家賠償法2条1項の責任を負う公共団体にあたる。

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  解答&解説

正解 1

解説

ア:誤、イ:誤、ウ:正、エ:正

教科用図書の検定にあたり文部大臣(当時)が指摘する検定意見は、すべて、検定の合否に直接の影響を及ぼすものではなく、文部大臣の助言、指導の性質を有するものにすぎないから、これを付することは、教科書の執筆者または出版社がその意に反してこれに服さざるを得なくなるなどの特段の事情のない限り、原則として、国家賠償法上違法とならない。 ア.誤り

修正意見は合否に影響するが、改善意見は合否に直接の影響を及ぼさないことから、「すべて」、検定の合否に直接の影響を及ぼすものではなく、としている点が誤りである。

本件は、高等学校用日本史教科用図書「新日本史」について、文部大臣(当時)が、昭和55年度に申請された新規検定の際に教科書の原稿本の記述に対して修正意見及び改善意見を付したこと、昭和58年度に申請された改訂検定の際に教科書の改訂のための原稿記述に修正意見を付したこと並びに昭和58年にされた正誤訂正申請を受理しなかったことが違憲、違法であるとして、文部大臣(当時)の各行為によって精神的苦痛を被ったとする上告人が被上告人(国)に対し、国家賠償法1条に基づいて損害賠償を求めている事件である。

修正意見を付することは、申請者がこれに応じて訂正、削除または追加などの措置をしなければ教科書として不合格となるというものであるから、合格に条件を付するものであり、これが国家賠償法上違法となるかどうかについては前記のような判断を要する。
これに対して、改善意見は、検定の合否に直接の影響を及ぼすものではなく、文部大臣の助言、指導の性質を有するものと考えられるから、教科書の執筆者又は出版社がその意に反してこれに服さざるを得なくなるなどの特段の事情がない限り、その意見の当不当にかかわらず、原則として、違法の問題が生ずることはないというべきである(最判平成9年8月29日)としている。

なお、現在は、平成元年の検定規則改正により、修正意見、改善意見の区別は廃止され、検定意見に統一されている(最判平成9年8月29日)。

政府が物価の安定等の政策目標を実現するためにとるべき具体的な措置についての判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため当該政策目標を達成できなかった場合、法律上の義務違反ないし違法行為として、国家賠償法上の損害賠償責任の問題が生ずる。 イ.誤り

インフレーションのため郵便貯金が目減りした原因は、政府が政策目標達成への対応を誤ったことにあるとして国家賠償請求した事案である。

「目標を調和的に実現するために政府においてその時々における内外の情勢のもとで具体的にいかなる措置をとるべきかは、事の性質上もっぱら政府の裁量的な政策判断に委ねられている事柄である」
「仮に政府においてその判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため目標を達成することができず、またはこれに反する結果を招いたとしても、政府の政治的責任が問われることがあるのは別として、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものとすることはできない」(最判昭和57年7月15日)

町立中学校の生徒が、放課後に課外のクラブ活動中の運動部員から顔面を殴打されたことにより失明した場合において、当該事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のない限り、顧問の教諭が当該クラブ活動に立ち会っていなかったとしても、当該事故の発生につき当該教諭に過失があるとはいえない。 ウ.正しい

町立中学校の生徒が、放課後、体育館において、課外のクラブ活動中の運動部員の練習の妨げとなる行為をしたとして同部員から顔面を殴打されたことにより左眼を失明した場合に、顧問の教諭が当該クラブ活動に立ち会っていなかったとしても、当該事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のない限り、失明につき当該教諭に過失があるとはいえない(最判昭和58年2月18日)。

クラブ活動に立ち会っていなかった顧問の教諭に過失がないとされた事例について、国家賠償請求の対象であることを前提にして、以下のように判示した。
「課外のクラブ活動であっても、それが学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭を始め学校側に、生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務のあることを否定することはできない。」
「しかしながら、課外のクラブ活動が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は別として、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立会い、監視指導すべき義務までを負うものではない」

さらに「顧問の教諭が代わりの監督者を配置せずに体育館を不在にしていたことが当該教諭の過失であるとするためには、本件のトランポリンの使用をめぐる喧嘩が当該教諭にとって予見可能であったことが必要であり、もしこれが予見可能でなかったとすれば、本件事故の過失責任を問うことはできない」
「予見可能性を肯定するためには、従来からの当該中学校における課外クラブ活動中の体育館の使用方法とその範囲、トランポリンの管理等につき生徒に対して実施されていた指導の内容、体育館の使用方法等についての過去における生徒間の対立・紛争の有無、生徒間において対立・紛争の生じた場合に暴力に訴えることがないように教育・指導がされていたか杏か等を更に総合検討して判断しなければならない」

市内の河川について市が法律上の管理権をもたない場合でも、当該市が地域住民の要望にこたえて都市排水路の機能の維持および都市水害の防止など地方公共の目的を達成するために河川の改修工事をして、これを事実上管理することになったときは、当該市は、当該河川の管理につき、国家賠償法2条1項の責任を負う公共団体にあたる。 エ.正しい

普通河川を事実上管理する市が国家賠償法2条1項の責任を負う公共団体にあたるとされた事例である。

「市は、地域住民の要望にこたえて都市施設である排水路としての機能の維持、都市水害の防止という地方公共の目的を達成するべく、改修工事を行い、それによって当該溝渠について事実上の管理をすることになったもので、当該溝渠の管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国家賠償法2条に基づいてその損害を賠償する義務を負う」
「このことは、国または都道府県が当該溝渠について法律上の管理権をもつかどうかによって左右されるものではない。」(最判昭和59年11月29日)

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