令和6年-問3 憲法 新しい人権
Lv4
問題 更新:2025-01-10 00:42:45
人格権と夫婦同氏制に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らし、妥当でないものはどれか。
- 氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する。
- 氏は、婚姻および家族に関する法制度の一部として、法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する人格権の内容も、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって、初めて具体的に捉えられる。
- 家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があり、また氏が身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されている。
- 現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。
- 婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上保障される人格権の一内容とはいえず、当該利益を婚姻および家族に関する法制度の在り方を検討する際に考慮するか否かは、専ら立法裁量の問題である。
正解 5
解説
本問題は、最大判平成27年12月16日を題材としている。
概要
夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫または妻の氏を称すると定める民法750条の規定が、憲法13条、憲法14条1項、憲法24条1項および2項等に違反し、当該規定を改廃する立法措置をとらないことは立法不作為の違法だとして、国に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めたものである。
最高裁は判決で、民法750条は、憲法13条、憲法14条1項、憲法24条に違反するものではなく、当該規定を改廃する立法措置をとらない立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとした。
氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する。 1.妥当である
「氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するものというべきである」
氏は、婚姻および家族に関する法制度の一部として、法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する人格権の内容も、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって、初めて具体的に捉えられる。 2.妥当である
「氏は、婚姻および家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する上記人格権の内容も、憲法上一義的に捉えられるべきものではなく、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって初めて具体的に捉えられるものである。」
家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があり、また氏が身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されている。 3.妥当である
「氏は、家族の呼称としての意義があるところ、現行の民法の下においても、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。」
「氏に、名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば、氏が、親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。」
現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。 4.妥当である
「具体的な法制度を離れて、氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し、違憲であるか否かを論ずることは相当ではない。」
婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上保障される人格権の一内容とはいえず、当該利益を婚姻および家族に関する法制度の在り方を検討する際に考慮するか否かは、専ら立法裁量の問題である。 5.妥当でない
後半が妥当でない。
「婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、氏を含めた婚姻および家族に関する法制度の在り方を検討するにあたって考慮すべき人格的利益であるとはいえる」