平成25年-問29 民法 物権Ⅱ
Lv3
問題 更新:2023-01-30 22:32:07
Aが自己所有の事務機器甲(以下、「甲」という。)をBに売却する旨の売買契約(以下、「本件売買契約」という。)が締結されたが、BはAに対して売買代金を支払わないうちに甲をCに転売してしまった。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- Aが甲をすでにBに引き渡しており、さらにBがこれをCに引き渡した場合であっても、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、甲につき先取特権を行使することができる。
- Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことができる。
- 本件売買契約において所有権留保特約が存在し、AがBから売買代金の支払いを受けていない場合であったとしても、それらのことは、Cが甲の所有権を承継取得することを何ら妨げるものではない。
- Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、留置権を行使してこれを拒むことができる。
- Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、Bが売買代金を支払わないことを理由にAが本件売買契約を解除(債務不履行解除)したとしても、Aは、Cからの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことはできない。
正解 4
解説
Aが甲をすでにBに引き渡しており、さらにBがこれをCに引き渡した場合であっても、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、甲につき先取特権を行使することができる。 1.妥当でない。
甲は既にBからCに引き渡されているため、先取特権を行使することはできない。
動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する(民法321条)。
Bから甲(動産)の売買代金の支払いを受けていないときは、甲につき先取特権を行使できそうであるが、先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない(民法333条)。
Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことができる。 2.妥当でない。
Aは、Cからの引渡請求に対して同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことはできない。
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる(民法176条)。BC間に売買契約がある本問では、Cが甲の所有者である。
また、「同時履行の抗弁権(民法533条)」は債権として構成され、双務契約の効力として認められるから、契約当事者及び債権債務の譲受人に対してのみに主張することができるものであって、第三者に主張することはできない。
AC間には契約関係がないのであるから、Aは、Cからの引渡請求に対して同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことはできない。
本件売買契約において所有権留保特約が存在し、AがBから売買代金の支払いを受けていない場合であったとしても、それらのことは、Cが甲の所有権を承継取得することを何ら妨げるものではない。 3.妥当でない。
所有権留保の特約は、Cが甲の所有権を承継取得することを妨げる。
「所有権留保特約」とは、売買代金の担保のため、売主・買主間で代金完済までは売主に所有権を留保する特約である。
この所有権留保の法的構成には争いがあり、通説は所有権留保を担保的に構成するのに対し、判例(最判昭和50年2月28日)は所有権的構成をしている。
判例の見解に従うと、所有権留保の特約は、第三取得者Cが甲の所有権を承継取得することを妨げることになる。
担保的構成 | 売主に存するのは、残存代金を被担保債権とする担保権であって、所有権からこれを差し引いた物権的地位は買主に帰属する |
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所有権的構成 | 売主には所有権そのものが留保され、買主には代金完済まで利用権が与えられているに過ぎない(最判昭和50年2月28日) |
なお、Cは、即時取得する余地はあるが、これは本肢のいう承継取得(他人の権利に基づいて権利を取得すること)にあたらない。
Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、留置権を行使してこれを拒むことができる。 4.妥当である。
AはBからの売買代金の支払いを受けていないときは、留置権を行使してこれを拒むことができる。
肢2で述べたように、Cが甲の所有者であるから、本来であればCはAに対して所有権に基づきその引渡し請求ができる。
しかし、留置権(民法295条以下)は、担保物権として構成され、第三者を含めてすべての人に主張することができる。
Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、Bが売買代金を支払わないことを理由にAが本件売買契約を解除(債務不履行解除)したとしても、Aは、Cからの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことはできない。 5.妥当でない。
Aは、Cからの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことができる。
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない(民法545条1項)。
このただし書きの第三者として保護されるためには、善意・悪意は問わないが、権利保護要件としての対抗要件が必要であり(最判昭和33年6月14日)、甲は動産であるから、引渡しが対抗要件となる(民法178条)。
Cはまだ引渡しを受けていないから、AはCからの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことができる。