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令和3年-問30 民法 物権

Lv3

問題 更新:2024-01-04 16:13:42

留置権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有すべきであるが、善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意より軽減されたものである。
  2. 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物について使用・賃貸・担保供与をなすことができず、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用した場合、留置権は直ちに消滅する。
  3. 建物賃借人が賃料不払いにより賃貸借契約を解除された後に当該建物につき有益費を支出した場合、賃貸人による建物明渡請求に対して、賃借人は、有益費償還請求権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。
  4. Aが自己所有建物をBに売却し登記をB名義にしたものの代金未払のためAが占有を継続していたところ、Bは、同建物をCに転売し、登記は、C名義となった。Cが所有権に基づき同建物の明渡しを求めた場合、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。
  5. Dが自己所有建物をEに売却し引渡した後、Fにも同建物を売却しFが所有権移転登記を得た。FがEに対して当該建物の明渡しを求めた場合、Eは、Dに対する履行不能を理由とする損害賠償請求権を被担保債権として当該建物を留置することができる。
  解答&解説

正解 3

解説

留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有すべきであるが、善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意より軽減されたものである。 1.妥当でない

「善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意より軽減されたものである」という点が妥当ではない。

注意義務の重さは、「善良な管理者の注意(善管注意義務)」>「自己の財産と同一の注意義務」である。
前半は、留置権者は、善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって、留置物を占有しなければならない(民法298条1項)ので正しい。

なお、債権・物権関係で「自己の財産と同一の注意義務」で足りるのは、受領遅滞中の債務者(民法413条1項)と無報酬の寄託での受寄物の保管(民法659条)である。

留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物について使用・賃貸・担保供与をなすことができず、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用した場合、留置権は直ちに消滅する。 2.妥当でない

留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用したからといって留置権が直ちに消滅するわけではない。債務者の請求によって留置権を消滅させることができるのである。

留置権者は、善管注意義務を負い(民法298条1項)、債務者の承諾を得なければ留置物について使用・賃貸・担保供与をなすことができないという制限を受けている(民法298条2項)。
そして、民法298条1項、2項に違反したとき、債務者は、留置権の消滅を請求することができる(民法298条3項)。
すなわち、留置権者が民法298条1項、2項に違反したからといって、留置権が当然に消滅するわけではない。

建物賃借人が賃料不払いにより賃貸借契約を解除された後に当該建物につき有益費を支出した場合、賃貸人による建物明渡請求に対して、賃借人は、有益費償還請求権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。 3.妥当である

留置権は、占有が不法行為によって始まった場合には、成立しない(民法295条2項)。

判例は、元賃借人(占有者)について、賃貸借契約が解除された後は当該建物を占有すべき権原のないことを知りながら不法にこれを占有していた場合は、占有者が本件建物につき支出した有益費の償還請求権に基づく留置権を主張することはできないとしている(最判昭和46年7月16日)。

留置権制度の趣旨の一つには、「当事者間の公平」がある。本件の状況で留置権を認めるのは、公平に反すると裁判所も判断したのである。

Aが自己所有建物をBに売却し登記をB名義にしたものの代金未払のためAが占有を継続していたところ、Bは、同建物をCに転売し、登記は、C名義となった。Cが所有権に基づき同建物の明渡しを求めた場合、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。 4.妥当でない

他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる(民法295条1項)。
そして判例は、留置権者が留置物を占有している限りは、留置物が第三者に譲渡されたとしても留置権は消滅しないで譲受人に対抗することができるとしている。

「甲所有の物を買受けた乙が、売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁権を主張することができる(最判昭和47年11月16日)。」
判例が述べるとおり、留置権は「物権」なのであるから、債権と違って特定の者(債務者)にしか行使できないわけではない。

本問にあてはめると、AB間でAの留置権が成立している以上、物権たる留置権をAはCにも行使して、建物の引渡しを拒絶することが可能である。

Dが自己所有建物をEに売却し引渡した後、Fにも同建物を売却しFが所有権移転登記を得た。FがEに対して当該建物の明渡しを求めた場合、Eは、Dに対する履行不能を理由とする損害賠償請求権を被担保債権として当該建物を留置することができる。 5.妥当でない

判例は、不動産の二重譲渡において、登記を得られなかった者が取得した損害賠償請求債権を担保するために留置権を行使することはできないとしている。

「不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもって、留置権を主張することは許されない(最判昭和43年11月21日)。」

なお、試験的な観点として、債権が「損害賠償請求権」であるときには、ほぼ留置権は成立しない。すなわち、牽連性(債権と物の間に一定の関係性があること)が否定される傾向が強い。

留置権が成立しない債権は、「損害賠償請求権」「敷金返還請求権」「造作買取代金請求権」等である。

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