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  4. 問3

令和3年-問3 憲法 その他

Lv3

問題 更新:2023-01-27 20:14:09

インフルエンザウイルス感染症まん延防止のため、政府の行政指導により集団的な予防接種が実施されたところ、それに伴う重篤な副反応により死亡したXの遺族が、国を相手取り損害賠償もしくは損失補償を請求する訴訟を提起した(予防接種と副反応の因果関係は確認済み)場合に、これまで裁判例や学説において主張された憲法解釈論の例として、妥当でないものはどれか。

  1. 予防接種に伴う特別な犠牲については、財産権の特別犠牲に比べて不利に扱う理由はなく、後者の法理を類推適用すべきである。
  2. 予防接種自体は、結果として違法だったとしても無過失である場合には、いわゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要である。
  3. 予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。
  4. 予防接種による違法な結果について、過失を認定することは原理的に不可能なため、損害賠償を請求する余地はないというべきである。
  5. 財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然である。
  解答&解説

正解 4

解説

本問は、集団予防接種によって、生命・身体に重大な損害が発生した場合、その被害者をどのような法律構成で救済するのか、という論点からの出題である。

予防接種に伴う特別な犠牲については、財産権の特別犠牲に比べて不利に扱う理由はなく、後者の法理を類推適用すべきである。 1.妥当である

本肢の主張は、憲法29条3項類推解釈説からのものである。

憲法29条3項類推解釈説
「憲法13条後段、25条1項の規定の趣旨に照らせば、財産上特別の犠牲が課せられた場合と生命、身体に対し特別の犠牲が課せられた場合とで、後者の方を不刑に扱うことが許されるとする合理的理由は全くない」とした上で「生命、身体に対して特別の犠牲が課せられた場合においても、憲法29条3項を類推適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、国に対し正当な補償を請求することができると解するのが相当である」としている(東京地判昭和59年5月18日)。

予防接種自体は、結果として違法だったとしても無過失である場合には、いわゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要である。 2.妥当である

国家補償においては、違法・有過失(又は故意)な場合にされる国家賠償法1条の請求と、適法で特別な犠牲がある場合にされる損失補償の制度がある。そして両制度に該当しないいわゆる「国家賠償と損失補償の谷間」と呼ばれるケースがある。例えば違法・無過失ないし正当行為における補償がそれであり、その典型具体例としてあげられるのが予防接種事故である。
つまり、接種の過程や問診において公務員の注意義務違反(過失)が認められれば損害賠償がなされることになるが、それ以外の場合が谷間の問題となる。
この谷間の問題を解決するために、現状の救済のアプローチとしては、なんらかの形で過失の存在を推定又は認定した上で、国家賠償請求によって救済しているのが判例の立場である(最判平成3年4月19日、東京高判平成4年12月18日、最判平成4年12月18日、最判平成18年6月6日など)。

予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。 3.妥当である

本肢は、憲法13条説からの主張である。

憲法13条説(学説)
財産上の特別犠牲については補償がなされるのに、生命・身体についての特別犠牲については補償がなくあるいは不十分というのは、憲法13条の趣旨に合致しないので、予防接種健康被害は基本的には憲法13条を根拠に救済すべきである。

予防接種による違法な結果について、過失を認定することは原理的に不可能なため、損害賠償を請求する余地はないというべきである。 4.妥当でない

肢2参照。予防接種健康被害の現状の救済のアプローチとしては、なんらかの形で過失の存在を推定又は認定した上で、国家賠償請求によって救済しているのが判例の立場である。

財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然である。 5.妥当である

本肢は、憲法29条3項勿論解釈説からの主張である。

憲法29条3項勿論解釈説
憲法29条3項は、財産権について公共のための特別な犠牲がある場合には、これにつき損失補償を認めた規定がなくても、直接同条項を根拠として補償請求をすることができるものと解されているところ、この解釈が、生命、身体について前記特別な犠牲がある場合においても妥当することは勿論である(大阪地裁昭和62年9月30日)。

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