こんにちは
pomさん丁寧なんで特に「違い」についてフォローするところはなさそうなんですけど…
一般論として
責任能力って言葉使う時に「刑法上の」と「民法上の」とを混同しちゃいがちになりますので、お気を付けください。(初公判のニュースで「被告は、責任能力がなかったと主張し」とかいう慣用句に引っ張られて民法上の責任能力考えるときに刑法上の責任能力を混ぜて考えちゃったり、はありがち)。行政書士試験の試験範囲で責任能力と言われたら、民法上の責任能力(民法の不法行為責任を問える能力)のことです、大体は。
この問題全体は
「問34の不法行為の問題」ではないんですよね。
「問34の不法行為の損害賠償におけるカネ勘定(過失相殺)の問題」です。
そこ誤解したままだと、未成年に「民法上の」不法行為責任は問えるか?といった「不法行為」についての出題があった時に、「事理弁識能力は…確か…」とか考えなくてもいいことまで考えて間違えたりします。
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この問題の肢1肢2は、一つの判例が元になってます。
解説にもある最大判昭39.6.24です。
判決文は↓A4で1ページ半ですんで短いです。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/761/053761_hanrei.pdfただ、これ最高裁判決なんですよね(棄却)。ということは事実審でどういうことがなされたか?という点も多少知っておくといいのかもしれません。
〇事件の概要
X社の従業員xが生コン運搬車を運転して25㎞/hで十字路に東側から進入した。
健康な8歳のa及びbが、子供用自転車に二人乗りをして同十字路に南側から進入した。
生コン運搬車が自転車の右後部に接触し、abはこの事故で死亡した。
〇提訴
abの保護者(両親、母)であるABは会社Xおよび事故当時者xに
①abの逸失利益を払え
②葬儀費用を払え
③ABの精神的損害を賠償しろ
と提訴しました。
〇原審判決
原審(高裁)は、xの減速運転義務違反を認めxに賠償を命じました(不法行為責任はxで確定)。賠償額については当初の250万円を100万円に減額しました。(昭和30年代だから今の感覚で言えば5000万が2000万になったような感覚)
原審はabが「二人乗り」してたことをabの落ち度(過失)として、722条2項の過失相殺を認めたんですね。
〇上告
ABは当然不服です。理由として(大まかに書きますけど)
①722条2項を適用するには責任能力も事理弁識能力も、「いずれも」必要なはずだ
②abはまだ子供で責任能力はもとより事理弁識能力もなかったのだから、過失相殺はできないはずだ。
③よって減額したのはおかしい、当初通り払うような判決書いてくれ。
と上告したんですね。(法律審だから、○○法何条を適用したのはおかしいでしょ?という法適用の是非を問う内容になってる)
その結果、出たのがURL挙げた判決で、それが今に至るまで判例として残ってるんです。
①の点について
過失相殺は、積極的に不法行為を負わせるよう話じゃなくて、不法行為責任を負うものが払うべき金額がいくらか?という話なので、責任能力と事理弁識能力がそろってないと不可能なものではなく、事理弁識能力があればできる(二人乗りしたら危ないということが分かる程度であればよい)。
②の点について
原告はabに事理弁識能力がなかったというけれど、健康な8歳の平均的な小学生で、常日頃両親や学校から「広い道に出るときは一旦停止して右左見てから渡ろう」といった指導も受けていたという事情を勘案すると、事理弁識能力はあったと言える。
③の点について
よって、原審がabの二人乗りを考慮して損害賠償額を減額した判断は妥当だから、棄却するんですよ。
という判例です(かなり端折った)。判例六法にどこまで詳しく出てるかは存じませんが(目下別の六法使っておりまして)。
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平成27年問34は姑息な(ある意味試験の常道の)問題です。
だって、問題の設定の3歳のどうこうってほとんど関係なく解けますもの。
囮というかブラフの長いめの状況設定読ませて、考えなくてもいいこと考えさせようとしてます。
仮に読まなくても…
肢1、肢2は↑の判例から「過失相殺には事理弁識能力は必要。事理弁識能力は責任能力未満のなにか」だという理解があれば、「責任能力が必要で」「事理弁識能力は必要ではなく」の部分で、即×と判断できます。(3歳で事理弁識能力が具わるか、って点で判断を求めている肢では実はない。)
以下、戯言ですが、
この問題を本試験ぶりに解いたんですけど、その時のワゴン主人の思考経路です。
肢3は、乳母車でお散歩に出た保育士さんが目を離したすきに園児が…という有名な判例はあるけれど、問題のケースは保育士さんじゃなくて実母だ。「生計上一体とみなせるような身分関係にあれば過失相殺できる」という同乗事故の判例あったな…というところまで連想が聞くくらい勉強してれば、×はつけられる。子供が数年来の家出状態で戸籍上実母であっても監督権限を行使できない場合は例外的に別人扱いだったな…乗せてたのが付き合って数か月の彼女、彼氏なら別人扱いだったな…というところまで思い出す。
肢4は、「いかんにかかわらず」はものすごく怪しい。生まれつき首が人より長い人が交通事故に遭って…という有名な判例がネタ元だから「過失相殺はできなくはない(できる)」(但し、するにあたっては、望んでそうなったわけではないので状況に応じて慎重であるべき、という議論はある)。
…といった判例理解で消去法でも答出るんですよね。
実際、判例は丸覚えするというより、最高裁までこじれた悲しい(時に欲深い)事件の物語だと理解すると、状況の「絵」で理解することができると思います。(すべてそこまで掘り下げる必要はないですけど、読んでても分からない、という場合。このご時世、オンラインでも、判例の元になった実際の事件から柔らかく説いてくれるような個人ブログ等、それなりにありますので)